香港MBA留学後記

留学、その後

深圳勉強会に参加して

昨夜は香港和僑会が主催した、東京大学の伊藤亜聖准教授による「第142回定例会「イノベーション都市としての深圳~新世代ベンチャー企業とエコシステム~」という勉強会に参加してきた。

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深圳で何が起こっているか

伊藤先生のオリジナリティを侵害しない範囲で、自分用の簡単な記述に留めておきたい。

中国の大トレンド

  1. 高度化
  2. 調整
  3. 拡張

上記1の実現という文脈の中での深圳の位置づけと、1と3を掛け合わせを推進するための軸としての深圳

イノベーションを支えるエコシステム

  1. 成熟したサプライチェーン
  2. オープン・モジュール化した産業構造
  3. 上記にマーケティングとクリエイティビティを付加する仕組み

上記の結果、一日に200社を超える企業が創業

深圳の弱みと課題

  1. ソフトウェアとコンテンツの弱さ
  2. 不動産価格の高騰(若年人材の吸引力低下)
  3. 国の関与が深化する可能性

思ったこと

レガシーをどう打ち破るか

先日、長く製造業の経験をお持ちの方のお話を頂戴する機会があったのだが、その方は開口一番に「深圳で作っているものなんて、オモチャですよ」と仰っていた。

 

伊藤先生が述べておられた事例の一つに、深圳のレストランではレストランの席につくとQRコードをスマホで読み取り注文、決済もスマホで完了するという購買行動が既に実現しているというものがあり、これは20代・30代が人口の60%以上を占めている社会構造も一助になっているだろうとのことである。例えば日本で同じことをやった日には、「現金支払いも可にしろ」「情報弱者を置き去りにするな」と騒がれる可能性すらあるだろう。中国では、例のポイント制による就労ビザ要件の厳格化の件でも、高齢者ほど付与するポイントが低く設計されるなど、国の発展のために若年層を優遇する思想が明確に出ており、これだけ少子化が叫ばれている中で保育園の設置に真顔で反対している高齢者が我が物顔で権利を主張するような日本とは基本的に真逆の考え方である。人口ピラミッドを明確に反映しているという点ではなるほど民主化が実現できているといった点も、こうした構造を打ち崩しがたい背景となってしまっている。

 

もっとも、伊藤先生のお話を踏まえれば、中国全体が常に破壊的イノベーションを進めまくっているというわけでもなく、あくまで深圳には上海・北京のようなレガシーが存在していなかったということも発展の重要な要素の一つのようである(つまり、破壊する対象がなかった)。

課題を直視する心

我々が圧倒的に認識しなくてはならないのは、これまで日本が強みを発揮してきた「品質」「洗練」といった側面でも、中国企業は確実に力をつけつつあるということである。

 

伊藤先生のお話の中でも紹介があったのだが、深圳発のドローントップシェア企業DJIの最新製品Phantom 4のプロモーション動画を見て、どのようなことを思うか。

www.youtube.com

 

ローランド・ベルガーの遠藤会長が長江商学院で教鞭を取っておられた際、中国のマネージャー達が自ら「品質面で劣る中国製品」を強烈に認識した上で、その改善へのヒントを探るべく日本企業の「現場力」を必死で学ぼうと食らいついてくる熱気を感じたそうである。いつか品質面で追いつかれたとしても、それでも日本に残る優位性とは何か?という点も、伊藤先生のお話の中にヒントがあったように思う。それを真摯に追うことを目指すとすれば、まず過去の栄光にすがらず、今の課題を直視する心を持つことがスタンスとして必要であるはずだ。仮に深圳で作っているものが自分の会社の製品に比べて「オモチャ」だと感じたとしても、である。 

DJIとの取引に稟議を通せない日本企業

伊藤先生曰く、これだけ深圳にポテンシャルがあっても、深圳のベンチャーとの取引を忌避する日本企業は多いのだそうで、既にドローンで世界市場を席捲しているDJIのような企業相手でも、これは一般的な傾向であるそうだ。

 

「深圳がすごいらしいから行ってこい」というトップの意向で深圳に赴き、ビジネスチャンスを発掘してもいまいち日本本社には温度感が伝わらず、結果陽の目を見ないという流れが容易に想像できる。そこに来ると、したたかなシリコンバレーは深圳にベットしまくっている。

 

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引き続き、中国への理解を深めていきたい。

自分のリーダーシップスタイル

 少し前のことになるのだけど、本格的に授業が始まる前のImmersion programで、PDP(Professional Dynamic Programs)というリーダーシップスタイルを診断するワークショップがあった。

 

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ここでは、各学生が持つリーダーシップスタイルが5つの型に分類される。HKUSTのMBAプログラムでは随分長いこと新入生に対してやっているらしく、アラムナイに会った時にもこの話で盛り上がるらしい。

 

自分は当初あまり重視していなかったのだけど、いまだに授業の中でも結構メンションされたりする中で、自分が生来持っているリーダーシップスタイルはどのようなものなのか?を意識的に把握することは重要なことだと思うようになってきた。 

 PDPにおけるリーダーシップの分類

各人は以下の5つのいずれかに分類される(川崎さんのブログから拝借)。

  • 権力型のTiger(虎)
  • ミキサー型のPeacock(孔雀)
  • 我慢と平和型のKoala(コアラ)
  • 正確・緻密を求めるOwl(フクロウ)
  • 変幻自在のCameleon(カメレオン)

毎回敬愛する川崎さんのブログに触れずにはいられないのだが、事前に彼がPeacockであること、かつ以下のように述べておられることを知っていたので、ショボい話、自分もPeacockだったらいいなあと密かに思っていた。

想像通りの結果となった。
コンサルタントに向いている人/経営に向いている人は個人的には孔雀だと思っているので、
今回の結果に対しては満足。

この日のワークショップでは、個々人の結果を発表する前にまず各スタイルの説明があった上で、大部屋に貼られた新入生全員の顔写真つきの大判のシートに、各スタイルに対応した五色のシールを予想・評価として相互に貼りあうことを求められた。 

クラスメイトにどのように見られているか

まだ知り合って一ヶ月弱ほどの面子ながら、濃密な時間を過ごしているので、全員とはいかないまでも各人のシートには数十人からのシールが貼られていくことになる。

 

面白いもので、割と勝気な同級生にはやはりTigerのシールが貼られ、協調性の高い人気者にはPeacockのシールが貼られていく。何色のシールであるにせよ、クラスの中で目立つ学生は既にキャラが知られわたっているせいか何がしかのシールが集まっていった。MBAAという生徒会のような組織のPresidentに既に立候補している人望溢れるCには、さすがにPeacockのシールが溜まっていった。

 

まあ落ち着けと。自分もPeacockシールがたくさん貼られているといいな。そう思っていた僕は、いざ自分のシートの前に行き驚愕した。まず、何だかシールが少ない。そして色の統一感もバラバラで、あえていうならOwlが多い。Peacockシールは1枚か2枚。全然協調性豊かな人気者リーダーとみなされていない。そして実は、枚数が少ないことの方がショックだった。まだ自分に評価を下せるほど話した人が少ないということ。そして、評価してくれた人のシールもバラバラなので、全く自分のキャラが伝わっていないということだ。

 

始まるまでは想定していなかったことだが、実はこの方式の場合、沢山シールを集めている人や、印象的な色の貼られ具合をしている人が全員の前で明らかになる(別にシールの数自体はワークショップの趣旨ではない)。自分は、こんなにシールが少ない自分のシートを皆に見られたくないな、とこれまたショボい、そして実に自分らしいことを考えていた。

 

心底しょんぼりしながら自分の席に戻ろうとすると、北京から一緒の日本人K君のシートが目に入った。なんだかとても、ピーコックの色が多い。そしてシールの枚数も自分の1.5倍ぐらいありそうだった。実際K君はいつの間にか、ジャパンクラブのCEOにもなるなど、人望系路線を歩み始めていた。

 

もうだめだ、せめて正式な評価で自分がPeacockであることを知りたい。衆人の面前で自分の正当なPeacock性を明らかにするしかない。憔悴しきった頭でそう考えていた。 

自分の結果

配布された正式な評価シートには、自分がどのスタイルに該当するかは明確に記載されておらず、以下のチャートから読み取ることが求められた。

 

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最左の5つの要素のどれが高いかで、リーダーシップスタイルが判定されるという説明がなされた。

  • Dominanceが高い⇒Tiger
  • Extroversionが高い⇒Peacock
  • Peace/ Patienceが高い⇒Koala
  • Conformityが高い⇒Owl
  • 全部が同じぐらい⇒Cameleon

なんと、自分はTigerであった。Tigerというのは、激しく自己中心的・厚い報酬を求めるゴリゴリ系のリーダーで、まあ皆あまりなりたくない。「あいつTigerっぽくね?」というのは薄ら笑いを浮かべながら口にされるべき表現だ。なお、自己主張強めのMBA生の中でも、今年Tigerに該当するのは約10%であるとのこと。

 

そうこうするうちに、全Tigerの名前が前面のプロジェクターいっぱいに表示され、Tiger達は厳粛に起立することを求められた。「さあ皆さん、これがこの学年のTigerです」とDeanが言い、みんな「Oh...」という反応。僕はもはややぶれかぶれになっていたが、周りを見渡すとやっぱりお前もTigerか、という面々が並んでいた。

 

自分がTigerだというのはそれなりに意外感があったらしく、周囲の何人かには「お前Tigerだったのか!」と言われた。もっとも、一緒にグループワークを経験しているメンバーは「驚きはない、納得」とのことであったので、とうとう観念して現実を受け入れるに至った。

 

思うところ

このチャートの左側部分の解釈は上で述べた通り「本来の自分のリーダーシップスタイル」を表すのだけど、真ん中のチャートは「職場環境において発揮されているリーダーシップスタイル」を表す。ここではDominanceが下がり、Extroversionが大いに上昇、結果的に自分はPeocockになっている。

 

こんなことも踏まえつつ、いくつか思うところを。

  • 職場環境におけるリーダーシップスタイルがTigerからPeacockに変化しているように、自分の生来の型はどうあれ、多少変化させることは可能。実際、マイケル・D・ワトキンスのSTARSモデルにあるように、むしろ企業の状況に応じてリーダーシップスタイルを使い分けることも求められると理解
  • まあ自分は確かにTigerである。一方で、それをうまく使い分けることもできる。但し、自分の特性が最も活かせるのはTigerが求められる状況であること、及びそうでない場合にその他のスタイルを選択するとしても、自分のTiger性を意識した上で行動すべきことを知っておくことには意味がある
  • シールの枚数が少なかったことは厳粛に受け止めるべき。日本人相手でも少数の親密な友人を作りがちなほうだが、留学を機会にこうした人見知りをなくしたいと考えていた。それが全く実践できていない
  • シールの色に統一感がなかったことも、まだまだ存在感が示せていないということだと認識すべき。まだ、Tigerと思われて赤色のシール一面に貼られる方がよい
  • これからの留学生活の中で、リーダーシップを発揮する機会は多く 訪れると思うが、こうした客観的な評価を意識しつつ行動・反省を繰り返すと、得られるフィードバックも多いのではないか

おまけ

  • 仲のいいインド人AもTigerだったのだが、「これは仕事中のストレスフルな状況で回答したからこんなことになったんだ」と弁明していた。やはり皆Tigerになりたくない(というか、Tigerだと思われたくない)のだろう。一方、日本人のO君とM君も同じくTigerで、日本人のTiger率が密かに高いことも判明したのであった
  • 実はこのチャートには「ロジカルか/直観的か」の指標も載っていて、ロジカル値が高い学生はDeanから「Future management consultant!」などと囃されたりもしたのだが、現役マネジメントコンサルタントの自分はこの値がめちゃめちゃ低くて笑った。でも確かに、ロジックは常に大前提として存在すべきとの認識の下、自分は圧倒的に直観性を意識的に重視している

秋学期(前半)の授業が始まる

6月に日本を出発して以来、北京留学⇒香港到着⇒生活セットアップ⇒Immersion programと怒涛の勢いで日々が過ぎていったので、随分プログラムも進んだかのように錯覚していたのだけど、実は今週からようやく授業が始まる。とはいえ、日々が過ぎるのが本当にあっという間なので、うかうかしているとあっという間に終わってしまうのは間違いなく、もっと気を引き締めて取り組んでいきたい。

 

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さて、秋学期Fall1の授業は以下の通り。

【Core Courses】

  • Managerial Microeconomics
  • Management of Organizations
  • Data Analysis
  • Corporate Finance
  • Financial Accounting Foundations

【Electives】

  • Managing Strategic Alliances in China(1 Credit)
  • The Art of War and Eastern Wisdom in Business Competition(1 Credit)

コア科目に関しては、大学の専攻が商学部で、かつ統計・データサイエンスに特化したゼミに所属していたので、Management of Organizations以外は10年以上前とはいえ体系的に学んだ経験がある。学部での履修履歴を示した上で所定の試験にパスすれば履修免除となるのだが、如何せん英語での議論環境に慣れていないので、ある程度内容が理解できている授業から入るのがよいだろうと、一つも免除申請していない。前にも書いたが、経営の基礎知識を得るという事自体に自分のMBAの目的をセットしておらず、グループワークを通じて得るものこそが自分の留学の狙いなので、コア科目にもある程度真面目に取り組んでいきたい。

 

Fall1は2 Credit分だけ選択科目の履修が可能なのだが、これは相当に悩んだ。履修にあたって所定の科目の履修が前提(Prerequisite)となっているものもあるし、コア科目の時間帯と重複して開講されるものもあるので現実的に履修可能なものは多少絞られるのだが、今回履修を決めたもの以外に興味を惹かれたものには以下など。

  • Investment Analysis:大学時代にファイナンスはかなり力を入れて勉強していたし、曲がりなりにも数年間はinvestment bankerだったわけなのだが、流通市場の現実には疎いということもあり、理論⇒現実へのapplyを繰り返すという授業のアプローチに惹かれた。但しあくまで今の自分の専門性に沿っていないということと、他の側面からの学習も可能と考え履修を断念
  • Politics and Socioeconomic Environment of China:過去の中国の歴史・政治・経済をひたすら振り返るという授業。中国にアホみたいにハマってる今の自分には魅力的な授業なのだが、2 Creditの授業なので、これを取るとこれだけでFall 1の選択科目は終わってしまう。近現代史の"お勉強"なら自学も可能と判断し最終的には履修を断念

来年の秋学期にはExchangeで他の大学に行っている可能性が高いので、秋学期にしか開講されない授業は事実上今回が最初で最後のチャンスとなる。コア科目のスケジュールと照らし合わせながら、受験時のエッセイで散々考えたWhy MBA?の問いを思い出しつつ、最終的には以下それぞれの考えで履修決定した。

Managing Strategic Alliances in China

これまでお手伝いしてきた日本企業のクライアントの中国進出においても、中国企業とパートナリングすべき/しなくてはならないというケースは沢山あった。もちろん、ローカライズや現地マネジメントといった観点から他の国でもパートナリングは常に積極的に検討すべき施策なのだが、中国では業種によってそもそもJVが前提になることもある。一方で、ご案内の通り中国企業と交渉事を行うというのは簡単なことではないので、パートナリングの失敗が即ち中国事業の失敗となっている例も多い。というわけで以前から興味が強いテーマだったので、履修を決定した(もっとも、川崎さんのブログで彼もこの時期に履修していた授業だったということが一番の理由だったりするのだけど笑)。

 

The Art of War and Eastern Wisdom in Business Competition

The Art of Warとは、孫子の兵法の英語訳である。即ちこの授業名を日本語に訳すと、「競争における孫子の兵法と東洋の知恵」とでもなるだろうか。自分はそもそもこのトリッキーなタイトルにめちゃくちゃ心惹かれてしまうタイプの人間なのだが、更にこのクラスはMBAオフィスがマーケティング志向の学生に履修を「Must have」レベルで推奨している授業であり、かつ教授はEMBAでBest of Class/ Professorを受賞している方である(HKUST/KelloggのEMBAは何度も世界No1の評価を獲得している優良なコース)。

 

迷わず履修を決めるべきところなのだが、一昨年に履修したインドネシア人学生とふと話すことがあり評判を聞いたところ、「期待と全く違っていて、後悔している」と聞いたことから少し迷った。もっとも理由を聞いてみると「孫子の話が聞きたかったのに、Taoism(道教)の話だったよ」というのが彼の不満点のようで、よくシラバスを読むと最初からそもそも孫子にはそこまでフォーカスしておらず、あくまでEastern Wisdom推しの授業のよう。であれば自分としてはマイナスポイントでもないため、少し不安ながら履修を決意した。

 

今回の選択科目は、いずれも負荷としては重くないものを選んだつもりである。人生の休息も自分にとっては大事なMBAの目的。また、4月病にかかりやすいきらいがあるので、序盤はあえて抑えめにスタートすることとしたい。

 

もっとも、初回の授業が肌に合わなかった場合には即座に判断すれば履修を変えることができるわけなのだが、さて吉と出るか凶とでるか・・・?

北京の思い出

6/18~7/15まで、中国語の研修で1か月北京に留学した。既に8月になってしまっているが、忘れないうちに北京での一ヶ月のことを簡単にまとめておきたい。香港に来てからはプログラムでのストレスもそれなりにあるので、思い返すとあの一ヶ月の方が本当に気楽に楽しめていたような気がする。もっとも、得たものもとても大きかったのだが。

 

到着~入学 

6/16にプロジェクトの最終報告&最終出社&送別会を済ませ、翌日徹夜で引っ越し準備と荷造りをしたのち、6/18の朝8時に北京に出発。5時間ほど到着が遅れて21時頃着。コンサルタントになりたての頃に買った思い出深いスーツケースを中国東方航空に壊され、大クレーム(これはこの後一週間尾を引き、結局チンピラのようなエージェントから現金400元を受け取り一旦決着)。Airbnbの宿の場所が見つからず、小区の警備員のような人に50元を握らせ案内してもらうも夜遅かったために大家が開けてくれずにホテルで一泊。

 

 

一夜明けて、早速中国語の学校に登校した。Beijing International Communication College(BICC)という学校なのだが、これはHKUSTが正式に薦めてきた清華大学のプログラムとは異なり、授業時間1.5倍で授業料半分ぐらいの学校を日本人同級生のK君が見つけてきた学校である。教師によるバラつきは大きいと感じたが、それでも圧倒的にコスパが高いと思われるので、来年以降の入学生にはお勧めしたい(もっとも、後述するように授業は半分ぐらいしか出なかったのだが)。同級生には伊藤忠から派遣で来ている日本人も二人おり、この学校で半年でHSK最上級の6級を目指すのが習わしだというから、それなりの実績は保証されているかと思われる。

 

今年は、HKUSTから僕とK君に加え、インド人のA、UK/香港ハーフのAの4人がこの学校に通っていた。HKUSTの正式プログラムの方は、マレーシア/UK/香港のC、インド人のRとA、ドイツ/南アフリカのP、アメリカ人のPなどが通っており、すぐに交わって一緒に飲むようになった。

日々の生活

朝9時~12時半に2クラスあり、これは入学時のレベルに応じてクラスが割り振られた。自分は日本人K君と、HKUST生以外のドイツ人の3人のクラス。なお二つ目のクラスの先生とどうしても馬が合わず、こちらは結局2回だけ出席してあとはスキップすることになった。午後は2時から3時半までマンツーマンクラスがある。

 

日本人のK君は恐らく全ての授業にしっかりと出席していたが、自分は全体として半分くらいの出席率だっただろうか。出席していない時間でも、結構しっかりと中国語の学習はしていたのだが、やはり終わる頃にはK君の方が上達していたと思う。

 

Airbnbの家は三里屯という北京でいえば表参道のような場所にあり、そこからレンタル自転車で10分ぐらいかけて通学していた。夜になると以下の写真のような感じでキョンシーでも出てきそうだし、エレベーターなしの5階住まいだったりしたのだが、意外と快適に過ごすことができた笑

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北京での所感

全体として

HKUSTのMBAプログラムを選択し、必須でもない中国研修に行ったともなると、さぞかし親中派と思われそうだが、自分はもともとあくまで「中国にアレルギーがない」程度の人間であり、むしろ東南アジアでのキャリア志向が強い。しかし東南アジアでビジネスをするとしても華僑・中国経済の影響は無視できないところなので、「仕方なく」中国のことも学ばなければいけないかな、といった程度のモチベーションであった。今にして思えば、中国に対しても中国人に対しても、どこか閉鎖的で薄暗いイメージと偏見に満ちていたと思う。これまでプロジェクトで中国が絡む論点に出くわすと、いつも「中国はよくわからない」「難しい」と感じていた。

 

ところが、一ヶ月の北京滞在はそうした偏見を一掃してくれる結果になった。中国ビジネスに前向きに取り組みたいという志向になり、そこにある大きなチャンスを見据えたいと考えるようになったのが、今の正直な感想である。

中国経済

一人当たりGDPではまだまだ日本の方が高く、栄えているとされる沿岸部、その中でも首都北京は中国の中でも圧倒的に豊かな都市であるはずだが、平均的な市民の暮らしはやはり日本の方がまだ豊かである。都市内でも貧富の差は激しいため、高級外車やセグウェイ(一日に一回は交通手段としてセグウェイが走り回っているのを見かける)が走っている横で、三輪のトゥクトゥクや自転車が爆走している。

 

しかし、一部の豊かな人達のリミッターは外れている感がある。例えば工人体育館の周辺はクラブ街になっているのだが、これらクラブの前には日々これでもかというほど高級外車が連なっている。ELEMENTSというクラブはこれらの中でもかなり盛り上がっている方なのだが、それでもダンスフロアとVIP席の比率は東京の比ではない。殆どがVIP席。

 

そして、中国経済が既に明確に日本よりも進んでいる点がある。電子決済・レンタル自転車・宅配サービスである。もっとも、レンタル自転車にしても宅配サービスにしても、WeChat PayやAlipayのようなスマホ電子決済が普及しているからこそ発展を遂げている。Mobikeやofoといった街中のレンタル自転車のQRコードにスマホをかざすだけで、自動的に決済が完了すると共に解錠される便利さには感動した。外食の宅配サービスも非常に一般的なのだが、頼んだものが入っていない時などには、配達員と一旦WeChatで友達になり、返金のやり取りをしたりすることもあるらしい笑 日本なら考えられないし、日本にいた時なら「せめて店の公式アカウントを複数の配達員で利用可能にするべきじゃないのか。セキュリティに不安が残る云々」などと感じていそうだが、中国にいると「まあそんな面倒なことしなくていいんじゃないの」と考えるようになるし、「そういうつまらないこと言ってると遅れるよ」とすら思うのである。何しろ、北京の街は既にオレンジのMobikeと黄色のofoで埋め尽くされているのだが、これとてほんのこの半年で普及したものだというのだから、変化の速度には驚かされる。誇張なしに、今では普通のおばあさんがスマホをかざしてレンタル自転車を決済・解錠して乗り回しているのである。

 

また、街並みは予想以上に美しかった(少なくとも三里屯周辺に限れば)。ポイ捨てなどのマナーが、ここ数年で劇的に改善してきているらしい。これも、自分としては大きくイメージが覆された部分であった(なお、少し道を入るとお母さんが子供のズボンを下ろして小便させていたりする光景に日常的に出くわす)。

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 なお、大気汚染は如何ともし難いレベルで最悪である。一週間ほど過ごしたのち、頭痛と共に鼻水が止まらなくなり、以後なるべくマスクをつけて行動するようになった。夏は冬に比べれば相対的にPM2.5の濃度が低い&夏場は空気がそこまで澱まないことからマスクをつけていない人も多いらしいのだが、しばらく北京に滞在した人であれば身の危険を感じるレベルで空気が汚れているとわかるはずである。

中国人

自分はいらぬ差別感情などを持っているタイプの人間ではないが、それでも大陸の中国人に対して、手放しでポジティブな感情を持っていたわけではない。つまり、少なくとも平均的に「マナーが悪い」「声が大きい」「不親切」といった印象を持っていた。

 

約一ヶ月を過ごした感想としては、まあ全般としてはマナーも悪いし声も大きいのだけど、思っていたよりもずっと親切な人が多いと感じた。あくまで浅い経験であるし、実際に中国人にこの感想を伝えたところ、「北京の中心部に限ればそれはそうだ」とのことではあるのだが、事前に抱いていたイメージは十分に覆された。

 

正確にいうと、彼らは「自分の輪」の中にいる人たちに対して親切であると感じたのである。即ち、中国人同士であっても、他人同士では非常に冷たい。言語特性もあると思うが(中国語では聞き返す時に啊?と言うが、これが日本人からするとチンピラが「あぁ?」と言っているように感じる)、人口が多い故に万人が万人に対して常に闘争をしているようにすら感じる。その一方で、家族・恋人・友人といった、自分の身の回りの人たちにはとても優しい。

 

必ずしも血縁や友人でなくても、「ふところ」に入りさえすればとても親切にされる可能性すらある。一度、カルフール(家乐福)に行こうとタクシーに乗った時、「カルフールは一杯あるんだよ!どこの!?」と凄まれ、Google mapを見せても不機嫌が収まらずに怖い思いをしたのだが、「わたし、中国語、勉強中。ごめんなさい」というようなことを中国語で伝えたところ、急に態度が軟化して話が弾むようになり、最後には勉強頑張れよと言われ握手を求められた上で和やかに下車したという経験があった。敬愛する川崎さんのブログでも、第三外国語は相手の文化へのリスペクトを示すツールだという指摘があったが、自分がこれから中国語を勉強する第一の目的は、まさにここにあると感じた。

 

もっとも、しばらく味をしめてタクシーに乗ったり銀行口座を開設したりする際に「わたし、中国語、勉強中」を連発していたものの、同じ経験は再現せずに何度も「啊!!??」と怒鳴られ、机を叩かれたりすることになるのだが。

中国語

北京は、一部のレストランやクラブでないと、基本的に英語は使えない。そうはいっても日本人はやはり漢字が読めるのが最大の強みで、レストランのメニューを見ても「この辺は麺類だな」「これは飲み物で、これはたぶんコーラ」というのは、中国語を勉強していない人でもわかる。

 

そこに来ると非漢字圏の人は本当に大変そうで、同じクラスにいたドイツ人は、ドイツでの仕事を辞めて北京で働くべく乗り込んできたそうなのだが、既に3か月ほど授業を受けたものの習得の進捗は極めて緩慢なようであった。

 

既に漢字をたくさん知っている日本人にとって、時制も動詞の変化もない中国語は、極論すれば漢字・単語の発音をひたすら覚えていくということにある。これは、外国語学習において、日本人が持っている数少ない強みである。中華の影響力が増していくのが避けがたい21世紀において、下手に中途半端な英語を勉強した人材を作るよりも、中国語に特化した方が習得可能性はあるのではとすら感じる。もっとも、向こうには一部のコンテンツファンを除いて日本語を勉強するモチベーションのある人はいないので、中国の属国として一方的におもねる色彩が強くなるため心情的には受け入れ難いところではあるのだが。

 

結び

毎日色々と衝撃的なことが起こり、そのたびに考えたことも沢山あったので、もっとこまめに記録をつけておけばよかったなと思うのだけど、仕方ない。中国語の学習はまだまだ途上だが、少なくともこの北京研修に行ったのは大正解であった。

 

HKUSTでは12か月間の香港でのプログラム終了後、4か月間交換留学に行くチャンスがある。これまではIESEかNYUに行きたいと考えていたのだが、上海のCEIBS(中欧国際工商学院)も現実的な選択肢として検討していきたい。

香港科技大学MBA受験体験記

HKUST日本人留学生のサイトを更新しよう!とジャパンクラブCTOのO君が頑張ってくれており、合格体験記の依頼が来たので早速書いた。TOEFL・GMATの点数は人に誇れるようなものでは全くないのだけど、Why香港?Why HKUST?の部分は、多少なりとも誰かの参考になることもあるのではと思うので転載しておく。

 

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Why MBA

高校生の頃から投資銀行やコンサルティングファームへの登竜門としてのMBAに興味があり、いつかは自分も行くものだと思っていました。大学の時に留学をするチャンスもありましたが、いつか行くMBAのために留学はとっておこうと思い、結局行きませんでした。ところが社会に出てからは仕事に夢中になり、結婚もし、気がつけば投資銀行もコンサルティングも経験し、そのうちにそのうちにと思っているうちに、あれほど憧れていたMBA留学に行くことは結局もうないのだろうなと思うようになっていました。

 

しかしその後私生活で離婚したことをきっかけに、改めて留学が現実的な選択肢として目の前に現れてきました。仕事は極めて順調で、今更肩書としてのMBAは必要がない。それでも、日本企業の成長戦略を検討する上で多くの場合第一に海外事業の強化が欠かせない状況下、国際経験が豊かな人が多い同僚たちとも比較する中で、自分を一段階磨き上げる必要性も感じていました。海外で長く過ごした経験がないこと、そしてその機会を自ら遠ざけ、諦めてきたことをどこかコンプレックスのように感じてもいました。

 

そのような折、ちょうど年に一度の社費留学制度の案内が流れてきたことから、これがきっと最後のチャンスになるだろうと思い申し込みを決意し、運よく他に応募者もいなかったため、2015年6月からMBA受験を開始することになりました。

 

Why HKUST

留学を志してから当初より、ずっとバルセロナのIESEのみを受けるつもりで準備を進めていました。MBAといえば最も主流のUSの学校は全般的に米国人比率が高いことから、英語も不得手なマイノリティ学生は置いてきぼりになりやすいと聞き、英語環境としてはタフであるものの、自分が求めていた国際的多様性の中でのマネジメント力を磨くという目的にはそぐわないように思いました。

 

そのような中、数歳年上で同じく社費留学経験のある上司が卒業したIESEは、在学生の多様性にかけては並ぶものがなく、ケース主体の大変多忙なプログラムで知られており、1年制が多い欧州の中で、2年弱みっちり取り組めるプログラムかつジェネラルマネジメント志向という点でも私にとって大変魅力的でした。ここなら自分が期待する経験ができると思いましたし、仕事が忙しかったので複数志願するのは大変ということもあり、専願で進めていました。

 

ところが2016年春頃、ふとしたことからHKUSTのアラムナイの川崎貴聖さんのブログを知り、そのアジア・中華圏における華麗なキャリアとMBAでの経験の詳細な記述に引き込まれ一気に貪り読むとともに、はじめてアジアMBAの存在に目が向きました。思えば、「海外」という漠然としたキーワードを旗印にそれまで進んできたものの、自分がこれからキャリアを積んでいきたい海外は、まさにアジアを指していました。投資銀行時代に関わった上海での現地法人とのJV設立や不動産の買収の仕事を皮切りに、コンサルタントとしていくつもお手伝いしてきたクライアントの海外進出プロジェクト等を通じ、いつも熱気溢れるアジアに日本と自分の未来を感じていました。

 

アジアのMBAの中では、ダイバーシティや優秀な学生を惹きつけるランキングの高さの面から、初期的にHKUSTが最も魅力的だと思っていたところ、東京でアドミッションのコーヒーチャットイベントがあり、マーケティングヘッドのGaryと話をする機会をすぐに持てました。Gary自身がHKUSTの卒業生であり、とても魅力的な人物ですが、その中でGaryが言っていた「HKUSTはAsia Focusだ。東南アジアにとっても重要な中国を押さえつつ、中国以外のアジア各国にもアドレスしている」という言葉が大変印象的で、自分の志向と完全にマッチしていました。以来、IESEとHKUSTのいずれかに進学出来たらよいなと考えて準備を進めました。

 

出願スケジュール

2015年6月                   社費選考に通る

2015年6月~10月        非常に忙しく勉強が進まず、受験計画のみを検討

2015年10月~翌7月   TOEFL対策、初回78点ののち計8回上下動しようやく100点

2016年5月~9月         後半から並行してGMAT対策、初回で660点出たので終了

2016年9月~翌2月     2nd Roundに向けエッセイ・インタビュー準備を進め終了

 

結果的にIESEもHKUSTも同じぐらいの志望度のまま選考が進み、「どちらか落ちれば選びやすいのにな」と思っていたところ両方受かり、悩みが深まりました。バルセロナで行われた最終選考(Assessment Day)に参加しては「IESEにしよう」と思い、HKUSTの雄大なキャンパスを訪問しては「HKUSTにしよう」と揺れていましたが、両校のアラムナイも含め多くの方にお会いし、自分の志向を深く考え詰めた結果、「アジアでエッジを立てていきたい」という結論に至ったことからHKUSTを選びました。

 

TOEFL・GMAT対策

IESEもHKUSTも、TOEFLは100点、GMATは650点ほどあれば十分そうだったので、それを目標にし、ギリギリで達成した点では効率がよかったと思いますが、どちらも月並みな点数ですので詳細は高得点の人々に譲り、お金をかけて参加したものだけ紹介します。

 

TOEFL

・Web TOEFL

⇒受験初期にリスニングだけとりましたが、最後までやりませんでした。Andy先生の勉強会に参加して、無料の中国版TPOを使って勉強する方が効率がよいと思います

 

・Andy先生の勉強会

⇒TOEFL攻略の全体戦略や細かいTipsを丸一日かけて教えてくれます。中国版のTOEFL TPOの使い方等も教えてくれるので、受験初期に行くと非常にコスパがよいです

 

・Michaelの添削

⇒格安で質の高いライティング添削をしてくれます。こちらもAndy先生の紹介でした

 

・四軒家忍先生の個別カウンセリング

⇒スピーキングに関して非常にためになるお話を頂戴できました

 

GMAT(Verbal34、Math48、Total660)

・YES

⇒SC対策で通いました。知的刺激が非常に強い授業で、また通いたいぐらいです

 

・マスアカ(テキスト)

⇒数学は得意なので50~51を狙いたかったのですが、結局やり通す時間がなく、本番も不本意な結果となりました

 

エッセイ・推薦状の準備

エッセイ以降の準備は会社の先輩が多く使っていたReve Consultingにお願いしました。コスパが良い割に非常に充実した指導を親身に行って下さり、お勧めできます。推薦状は自分とReveで書き上げたものを上司2人に確認して頂き、提出しました。

 

インタビューの準備

Reveが数回模擬面接をしてくれた他、GMAT終了後はちょくちょくレアジョブで面接形式のレッスンを受けていました。

 

最後に

MBA留学に求めるものは本当に人それぞれだと思います。自分はなぜMBA留学に行きたいのか(Why MBA)、そしてなぜこの学校を志望するのか(Why this school)は、エッセイ準備という表層的なタスクに留まらない、本質的な問いだと思います。

 

まだ正しかったかはわかりませんが、私はこの点において、散々悩みぬいた上で自分が納得できる答えとしてHKUST進学にたどり着けたことに大変満足しています。一度は諦めていたMBA留学を、このような形で実現できた幸運を最大限活かし、後悔のない留学生活にしたいと考えています。この体験記が、これからHKUSTへの入学を検討される方への一助となれば幸いです。

タイ~ラオス旅行記3

(Facebookからの転載)

 

今日は思いつきでツアーに申し込み、滝に行った。石灰岩がどうのこうので青く見えるらしく、とても綺麗だった。滝に打たれる爽快感もハンパなくて、間違いなく来てよかったと思う。

 

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さて、帰りは14:30にバスに集合とのことだったので集まったはいいけれど、ドライバーが全然来ない。15分ぐらいして、他の乗客もざわついてきたところ、他のバスの運転手と思しき青年が僕に話しかけてきた。

 

運: このバスの運転手の名前はトゥイミアナムだ、きっとあっちの方でビリヤードをやってるかビールを飲んでるから、トゥイミアナーム!って言いながらあそこらへんを歩き回るといい

し: 急いでないからいいよ

運: いいから行って来いよ。名前は覚えたか?トゥイミアナムだ!言ってみな

し: トゥイミアナム

運: ヒャーッ。そうそう、行って来い!

 

なんで僕が行かなくてはいけないんだろうと思ったけど、他の乗客の顔を見たら、何してんだ早く行って来いよって顔をしている。このように無責任で他責的なスタイルを取る人は、彼ら自身の成長のみならず、ひいては人類社会の成長を実に緩やかなものにしていることに責任の一端を感じて欲しい。そういうわけで、一流のオーナーシップを見せつけてやるべく、行くことにした。駐車場から少し離れた売店が集まっているような場所に着くと、確かにビリヤード台があって10人がかりで囲んでいる。

 

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し: トゥイミアナーム!(運転手の顔は覚えていない)

 

ビリヤードを囲んでいた集団に、なぜか爆笑が起こる。奥の方でビリヤードをやっていた、トゥイミアナムっぽいやつがキューを握ったまま飛び出てきた。

 

ト: あと2分、いや5分で行く

し: マジで?急いでよトゥイミアナム

 

また爆笑が起こる。トゥイミアナムと言うと、爆笑が起こるみたいだ。そんなわけで先に駐車場に戻ると、さっきの運転手が嬉しそうに話しかけてくる。

 

運: トゥイミアナムはいた?

し: トゥイミアナムいたよ

運: ヒャーッヒャーッ。いい名前だ、ヒャーッ

 

このあたりから、トゥイミアナムというのは彼の本当の名前じゃないんだろうなと思った。きっと、何かラオス語で卑猥な言葉か何かで、○○野郎とか○○が大好きな野郎とか、そんな意味に違いない。

 

ようやくトゥイミアナムがバスに戻ってきて、乗客全員乗り込んだ。いざ出発という段になったが、さっきの運転手はまだ僕の席の横の窓を叩きながら、セイ・ヒズ・ネイム・アゲーン!とか言ってやがる。何がアゲーンだ、馬鹿野郎。

 

バスは走り出したが、何だか怒りがこみ上げてきた。こっちが言葉をわからないのをいいことに、大衆の面前で○○野郎だなんて卑猥な言葉を叫ばせるとは、下劣な行為だ。しかし、僕は自分が世界を股にかけるべき誇り高いジャパニーズサラリーマンであることを思い出し、怒りを鎮めた。なるほど彼がしたことは確かに下劣かもしれないが、言葉のわからない外国人に卑猥な言葉をしゃべらせるのは確かに楽しい。そういうことが良くないことだと気づくためには、高度な国際感覚が必要なのだ。

 

バスがルアンパバーンの街まで戻った頃、僕は運転手に聞いてみた。

 

し: トゥイミアナムというのは、あなたの本当の名前じゃないんでしょう?

ト: ・・・違うよ

し: どういう意味なの?

ト: 王様だよ

 

思ったほど卑猥な言葉ではなかった。いつも自由に行動して乗客を待たせたりするから、そう呼ばれたりしてるのだろうか。しかし、卑猥な言葉でないとすると、先ほど感じた怒りの行き場がなくなったように思えてきて、僕は少し恥じ入った。いやしかし、トゥイミアナムはああ言ったものの、本当はただの王様という意味じゃないのかもしれない。◯◯王とか、◯◯が大好きな王様とか、そういうやつかもしれない。

 

そう思うとまた怒りがこみ上げてきた。そうだ、こういう怒りを大事に、世界と戦わなくてはいけないのだという気がしてきた。そうして、僕は怒りの火が消えないように気をつけながらホテルに戻り、一心不乱にiPhoneのキーボードを叩いている。

タイ~ラオス旅行記2

(Facebookからの転載)2日目@タイ~ラオス


7時起きで国境を越えて、スローボートに乗り込んだ。結論から言うと、コミュ障にはスローボートはきつい。明日は誰にも話しかけられないようにスピードボートに乗ろうと思う。

 

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隣に座ったオーストリア女性: ボートの中でも勉強してるの?日本人が勤勉というのは本当ね
し: 留学したいから
オ: "げっ歯目"なんて単語聞いたこともない
し: ネズミとか、そういう動物(しゃべってる英語のレベルと勉強してる英単語のレベルがバランスしてないなと思われてるかな)
オ: 仕事は何してるの?
し: コンサルタント。東京にあるドイツの会社で働いてる(その割にはヨーロッパのことあまり知らないなと思われてるんだろうな)
オ: そうなんだ!ドイツは行ったことある?
し: いや、ない(なんでドイツの会社で働いてるのにドイツに行ったことないんだろうと思われてるかな)
オ: そうなんだ・・・。ラオスでは何をするの?
し: (今のところ特に予定はないから、なんて答えたらよいやら・・・)この本(TOEFL3800)を読む
オ: それは・・・タフね・・・
し: ・・・(そっと目線を本に落とす)
オ: ・・・

 

新たに隣に来たアメリカ人: やあ!昔日本語を勉強しようと思ったけど漢字が難しいから諦めたよ。俺の名前を漢字で書いてみてくれるかい?ウォルターだ
し: (魚留太と書く)
ウ: おお!どういう意味?
し: Fish-keeping man
ウ: はっはっは!
し: ・・・
ウ: ・・・

 

明日はスピードボートに乗ろうと思う。