香港MBA留学記

香港科技大学MBA留学で経験したこと、考えたこと

誰も教えてくれないビットコインへの純粋な疑問

もちろんこれまでも「ビットコインがここまで上がった」とか「日本の法規制がとうとう仮想通貨を認めた」とか、何だか景気のいい話は耳に入ってきていたのだけど、ここ1~2週間で立て続けに身の回りでもビットコインの話が聞こえてきた。

 

「ビットコインの会社を作り、大手と提携しました」

とか

「友達の彼氏がビットコインの会社を作ったんだって」

とか、そういう話である。

 

以前Fintechについてまとめて勉強した時に、ブロックチェーンについては多少の知識を得たのだけど、ビットコインについてはずっとシンプルな疑問を持っていた。それは、

 

「価格がこれほど乱高下するものが果たして決済手段として普及するのか?」

 

ということだ(そもそも「ビットコインの会社」って何だ?みたいなこともあるのだけど)。そうはいっても他にやりたいことが山ほどあるので放っておいたのだけど、あまりに世の中が盛り上がりすぎていて、今後数年で何か大きな動きがあるように思ったので、自分なりの考えと疑問を一度整理しておくことにした。

 金融での勤務経験があるとはいってもプライマリーマーケットで数年過ごしただけなので、決済関連やその他経済全般には素人同然であるということ、及び一部憶測や仮説も含んでいる点はご理解頂き、理解に誤りがある点などあれば是非ご指摘頂ければと思う。自分はただ、「本当のことが知りたい」だけである。

 なおビットコインを支えている技術であるブロックチェーンに関しては、自分は元より肯定的である。

「(自称)ビットコイン専門家」の方々とのやりとり

まずは「ビットコインの会社を作りました!」と熱っぽく語って頂いた方に、その場で疑問をぶつけてみることにした。

 

専「ビットコインはこれからすごいんです。まだまだ上がるんです」

し「あの、こんなに値段が乱高下するものが、本当に決済手段として普及するのでしょうか?」

専「それは確かに問題としてあると言われています。でも、まだ上がるんです」

し「…これから市場参加者が増えると、値段はある程度落ち着くので決済手段としての有効性も高まるんでしょうか?」

専「確かにそれはあるでしょうね。でも、まだ落ち着くには早い。上がるんです。数学や統計に詳しい学者の方の中には、〇〇〇万まで行くと言っている方もいます」

し「今日はお話を頂きありがとうございました」

 

ますます疑問が深まったと共に、疑問が疑念に変わってきたように感じた。ということで今朝インターネットで色々調べてみたんだけど、疑問を解消してくれるようなものがいまいち見つからない。現在ライトに出回っているニュースでいうと、

  • 一部、日経新聞やGIGAZINEなどによる比較的冷静な記事
  • そして大量の「ビットコイン専門家」の方々による啓蒙記事

後者がやばい。基本的に、決済手段としての普及可能性を論じているものはほとんどなく、一部あるとしても「とまあ、決済手段としては色々ハードルはあるんですがとにかくまだまだ上がりそうなんです!」みたいな、ビットコインの将来というものについて、意図的なのかそもそも理解していないのか、決済手段としての可能性と値上がり可能性を完全にごっちゃにして語っている。

 更に、金融リテラシーというか、インテリジェンスにも基本的に乏しい。例えば、以下のような記事を見ただけでも、金融に関する知識が全くないことがわかる。

ビットコインはビジネス面では決済手段としての利用が注目されがちであるが、個人レベルでは、値上がり期待や価格変動の大きさを狙った裁定取引ニーズが相応に大きい。

(中略)

もう一つの、裁定取引ニーズについては、現状のビットコイン価格は非常に大きな幅で価格変動をしているため、売買差益を狙ったトレーディングで収益を上げることも可能な状況にある。裁定取引自体は市場に流動性を供給する役目を担うため、株取引同様、その存在意義は大きい。

ビットコインでなにができるのか? | ビットコインの最新情報 BTCN|ビットコインニュース

 ご案内の通り、裁定取引とはこういうことではない。裁定取引とは、異なる値付けがされている同価値の資産を取引することで、無リスクで利益を得ることである(上記とは別に、ビットコインは各国の取引所間で値付けに差が生じているらしく、これを活用するのは裁定取引である)。もっともこのような用語を知らないこと自体をとがめているわけではなく、「自分でもよくわかっていないことをわかったように語る人が多い業界なのでは?」と感じたため、かなり情報を選別していかないと、間違った考えに到達してしまうと危機感を得た次第。なお、この著者の方は「ブロックチェーンの衝撃」という本を堂々と出版されているようである。それは確かに衝撃だなと思った。

 気を取り直して、情報を選り分けた上でビットコインに関するプラス面・マイナス面をまとめてみた。 

ビットコインの冷静なPros/Cons

いちいち書かないと「脱中央集権的な設計思想を持つビットコインは中立・公正・平和といった人類にとってかけがえのない価値観の奪還を云々」みたいな不思議な論を吹っかけられそうなので前もって言っておくと、決済手段としての普及可能性に絡む重要な部分だけをまとめている。

 【良いところ・可能性(とされていること)】

  1. (理論上は)海外送金も含め手数料が安い
  2. 発行量の上限が決まっているのでインフレ耐性がある
  3. 自国通貨の信頼性に依存しない
  4. 即時決済が24時間可能

1が最も重要な利点だと思われるが、現実的には手数料が上がり続けているので、後の方で「悪いところ」と合わせて考えることにする。

 2と3は、他の資産によっても達成し得る利点だが、運用手段が増えること自体は悪いことではないだろう。

 4は現時点ではP2P取引ならではの利点とも言えるが、彼らのいう「中央主権的」な決済手段であっても、やろうと思えば対応できなくはないのではないか。そもそも信頼性が高い「中央集権的」な手段の場合には、どうしても振り込み確認が即時的に必要な場合はインターネットバンキングの取引完了画面を見せれば事足りることが多いだろう。なおビットコインであっても処理完了のために多少は時間がかかるし、理論上は手数料の多寡によって処理完了の優先度が変わることになっている。

 【悪いところ、懸念点】

  1. (現実的には)手数料が上がり続けている
  2. 価格が乱高下している
  3. マネーロンダリングなどに使われやすい ※省略

さて、先ほど述べたが1の点が非常に重要で、ほぼ唯一といってもよいビットコインの優位性を揺るがしかねないのではないかと思った。ビットコインはP2Pで取引が完了するので銀行やクレジットカード会社といった中間業者にマージンを取られないというのがウリだ。しかし、現実的にはそのP2P取引を支えている「マイナー(Miner)」と呼ばれる人達に、新規コイン発行と合わせ、決済者からの取引手数料が支払われている。この取引手数料は理論上は決済者が自ら決めていいのだが、手数料が低すぎる場合にはなかなか処理が実行されないため、実際にはほとんどの場合においてサービス提供者側がうまく調整するようだ。そして、直近だと200円強という報告がされている(以下サイト参照)。

ビットコインで1週間生活してみた 手数料には仰天|マネー研究所|NIKKEI STYLE

 

かつ、この取引手数料はデータサイズが増えると上昇し(データサイズが大きい場合は、取引手数料が大きくないとマイナーが処理を手掛けてくれない)、当初無料同然だった手数料が既にここまで上がってきている。更に、ビットコインの発行量上限は2,100万枚と定められており、2140年には新規発行が行われなくなるとされているようだが、新規発行が行われなくなるとマイナーの収入源が取引手数料だけになるので、ますます手数料は上がるはずである。なおデータサイズに関連しては「ブロックサイズ問題」と呼ばれるその他の大きな問題も存在しているのだが、これは優位性云々以前に仕組みとして存続可能かという、ある意味「そもそもの話」になってくるのでここでは触れない。

どうせ送るなら何円送ろうがデータ量には影響がないということのようなので、はちゃめちゃに高い海外送金などではめちゃ有利なのではと思ったが、以下のブログでは、USに送金はできても出金はできないという状況が報告されている。そもそも、TransferWiseの方がずっとシンプルでかつ手数料もそれなりに安いということもあり、海外送金においてもビットコインである必要性は現段階でかなり薄い。

ビットコイナーの方々はよくクレジットカードの料率と比較してビットコインの手数料は安いということを指摘されているようだが、例えば同じように電子決済可能なWeChat Payなどでは銀行口座からチャージする時も支払うときも手数料無料である。頼みの綱の海外送金でも便利なサービスがあるとなると、ビットコインを使う意味とは何か? 

tetsuyaimagawa.hatenablog.com

 

2の価格の乱高下について。ここまで乱高下が激しいと、普通の人が多額のお金をビットコインで持っておくのは厳しい。支払いを受ける企業側はどうしているのか知らないが、受け取った瞬間に取引所で現金化しないと、よくわからない利益や損失を計上する羽目になる。そのためのシステム整備なども必要になりそう。

 そもそも一体、何によって価格が決定しているのか?株は、理論的には将来のフリーキャッシュフローの現在価値合計で決まる。為替にも、実体経済の裏付けが一応ある。ところが、ビットコインについてはさっぱりわからない。恐らく、冒頭でご紹介した「数学や統計に詳しい人によれば〇〇〇万円まで上がるそうなんですよ!」という程度の煽りで売ったり買ったりしている人と、その人たちの動きを予測しながら売ったり買ったりしている人たちの、化かし合いだけで決まっている状況のように思える。もちろん「日本が仮想通貨の関連法を制定」とか「中国当局が仮想通貨を規制」とか、そういうニュースが値動きのドライバーになるのだが、これは過去のトレンドを是としたうえでプラス情報・マイナス情報を加味しているだけで、本質的な価値(ファンダメンタル価値)について算出する方法は現状まだない。「ファンダメンタル分析を紹介します!」といっているブログなども散見されるが、これらも「価格への影響要素」を列挙しているだけで、こういうのはファンダメンタルとは言わない。

 「発行上限が決まっているから希少性があるんです」というビットコイナーもいる。日本円だろうが米ドルだろうが、希少性はある。すると「いや、『中央集権』では通貨の発行が自由に行われるじゃないですか!」という反論が聞こえてきそうだ。しかし本当に自由に通貨が発行されて、本当に希少性がなかったらとてつもないインフレが起こる。つまり理論上はたしかにビットコイナーの言うのももっともだが、実際の通貨においても確かに希少性は存在している。

 「市場参加者が増えれば価格が安定する」というのも、確かに実現すればそうなのだが、楽観的ではないか。現実の金融市場では、数多くの機関投資家が価格を調整する機能を果たしている。実体経済の裏づけがなく、投機でしか動かない市場に機関投資家が入ってくることができるのか、自分は疑問に思う。但し、どこかのタイミングでどこかの通貨に連動することにするなどの変更が起こればこの点は解消される。しかし、その場合にはビットコインが持つ強みのいくつかは失われ、「Pontaポイントと何が違うんだっけ」ということになると思われる。

現時点での自分なりの結論

ビットコインの本質的価値はどのように算出され得るのか、どなたかヒントでもあれば教えて頂きたいが、仮にその問題が解決し、仮に市場参加者が増えて、価格変動が為替レベルの水準に収まったとしても、手数料という唯一の優位性に疑問符が残るビットコインがどのように長期的な決済手段となり得るのか、自分としては疑問のまま残った。

 それでも、例えば海外送金がもし自在に可能になれば、現状高い手数料を取っている銀行に対する脅威となり、銀行におけるより効率的な仕組み構築とコスト削減、そして手数料の低下を迫る力になり得ることは確かに社会の変革・イノベーションといえると思う。既に取り組みが始まっているように、銀行による仮想通貨発行といった動きも進むだろう。但し、「中央集権」を避けるがあまりに無数のコンピュータにより同一取引のデータを冗長的に保存していく仕組みは、長期的に手数料面で勝つことは難しいのではないか。

 今回、自分の中ではビットコインに関する論点が明確になった。結局以下の二つと思われ、現時点での自分の理解は「難しいのではないか」だ。

  1. 手数料を下げることはできるのか
  2. 価格の乱高下を抑えることはできるのか

加盟店を増やすとか、参画企業を増やすとかいったことは表層的な取り組みにすぎない。上記二つの問題に本質的な解決の道筋が与えられなければ、決済手段としての普及は難しいと思った(なお途中でも述べたが、ブロックサイズ問題など、仕組みそもそもの成立に関わる問題が解決されることは大前提)。

 なお、繰り返すがビットコインの価格がこれ以上上がらないなどということは言っていない。あくまで決済手段としての可能性について検討したまでであって、価格が上がる上がらないの話はしていない。

 ビットコイナーの方々から反論を頂ければ、本記事はすぐにでも全文を修正したい。改めて申し上げるが、自分は真実を考察したいだけである。