香港MBA留学後記

留学、その後

何をするかより誰とするか ~ジャパントレックを終えて

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ジャパントレックが終わった。多くのMBAプログラムにおいて学生を修学旅行的に様々な国に連れていく〇〇トレックというものがあり、ここUSTにおいても深圳トレック・上海トレック・北京トレック・シンガポールトレック・タイランドトレック・コリアトレック・ロシアトレックなどがある中、ジャパントレックはその中でも毎年規模的に重要な位置を占めている。

 

そもそもUSTの学生はアジア系及び親アジアの欧米人が多いため、日本に一回も行ったことがない学生というのはあまりいない。そうしたこともあって、今年度のジャパンクラブは「Re-discover Japan!」をキーメッセージに色々活動を行ってきた。その集大成がジャパントレックであり、それを成功裡に終えられたのは感慨深い。

 

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 「外国人の友達を日本に連れてきて案内する」というのは自分のささやかな夢だったということもある。観光・企業訪問含めほぼ全て大成功で、唯一の失敗として最終日のバーレスクで華々しく終える予定が自分のミスで予約日が一週間間違っており、系列店のバーレスクYavayに急遽20人ばかり詰め込むことになってしまった時は真剣に自殺を検討したけど、まあトータルではよしとしよう(なお最近バーレスクのアルバムをAWAで聴きながら筋トレするのが大好きだったのだが、その事件以降悲しくて聞けなくなってしまった)。

 

個別の思い出を綴っていくといくら時間があっても足りないので、自分のキャリア観に影響のあった一つの出来事についてだけ記しておきたいと思う。

面白法人カヤックへの訪問

今回企業訪問した会社は基本的に非日本語話者のMBA採用を積極的に行っている日本発の多国籍企業が中心だったのだが、一つ面白法人カヤックを異色の存在として置いていた。リクルートにほぼ同期で転職した元同僚がカヤックのHRにいる関係で訪問を打診してみたところ、快諾してもらうことができた。

 

カヤックに訪問したいと思ったのにはいくつかの理由がある。

  • 事業内容が「日本的面白コンテンツ事業」である
  • (とかく悪評が出回っている)いわゆる「日本企業」の対極にある存在を見せたい
  • ユニークなマネジメントシステムを将来の経営幹部候補達に見せてあげたい

 

カヤックは競技プログラミングのコンテストで優勝者を過去多く輩出するなどサーバーサイドプログラミングの技術においてトップレベルにあるだけでなく、クリエイティビティの高い社員、及びそれを支えるユニークな制度・社風(サイコロ給、漫画名刺など)で知られる。

 

何をするかより誰とするか

「こんなに遠く(鎌倉)まで連れてきて、この古民家がテックスタートアップだって?お前ら、ふざけてるんだろう」

オフィスに入った瞬間はマジでこんな感じのことを言ってるやつらがいた気がするが、プレゼンが始まるとすぐに、みんな感嘆した。それも、以下のステップで興奮のギアが高まっていった。

 

Step 1:カヤックの制作物をWEBで見る⇒これはすごい、クールだ

Step 2:事業内容を聞く⇒プロモーションワークとゲーム制作はわかったけど、葬儀とかもやってんの!?

Step 3:人事制度を聞く⇒なんてユニークな会社なんだ・・・

 

Step 2~3あたりから皆大騒ぎだったので、HR担当者の言葉を訳していくこちらもとても楽しかった。カヤックのユニークな制度の背景には全て合理的で考え抜かれた理由がある(サイコロ給、本社鎌倉の背景にも勿論ある)。

 

中でも以下のやり取りには感じ入ってしまった。

学生「何でこんなに技術力の高いスタートアップなのに葬儀事業をやってるんですか?」

HR「うーん、いわゆる事業戦略というものがないんですよねえ」

 

訳そうか迷った。もちろん彼らは戦略を、それも極めて一貫性のある戦略を非常に高い精度で実行している。続く言葉で補足してくれるはずだと信じ、そのまま訳した。

 

そんな馬鹿な、ということで爆笑する学生。そして、HR担当者が続けた。「何をするかより、誰とするかなんですよ」

 

非常に重要な言葉なので、慎重に訳した。

"Who you work with matters more than what you do"

 

学生が静かになった。

誰と働くか

トレックが終わった後2日ほど実家に滞在した際、とあるNHKの番組を観た。某大手アミューズメント企業の社長が、バイトとして複数の店舗に潜入し、現場の生の声を拾うという企画のものだ。この社長の方が実は高校かつ大学の部活の大先輩で、以前何度かお話しさせて頂いているプロ経営者の方なので、放送を知り録画しておいて欲しいと実家にお願いしておいたものだ。

 

素晴らしい放送で、この経営者の方はもちろん全くおごることなく虚心坦懐に現場の悩みや問題点を拾い上げ、最後に正体を明かす段になっても一人ひとりの良いところを褒め、労をねぎらい、会社としての改善を誓っておられ、月並みにいって非常に感動したのだが、それよりも現場の一人ひとりの働きぶりや悩みの告白を見ていて思わず涙が出てしまった。

 

傍から見ていたらなぜそこで泣くのか意味不明だったと思うが、例えば小さい頃からそこのゲームセンターに通い、現在バイト入社3ヶ月目の人が、全店舗に先駆けて導入されたものの不振のカジノ型ゲームをどうしたら盛り上げられるかを真剣に悩んでいる姿を見て、こみあげてくるものがあった。

 

すごく合理的(そしてつまらない)な考え方としては、「たかがバイトがどんなに一生懸命取り組んでも時給は変わらない」「何か頑張る動機があるとしたら社員登用に繋がるかどうかぐらいだろう」というスタンスも考えられる。しかし、自分の目にはその人がそうした動機で仕事に取り組んでいるようには見えなかった。

 

その時に、カヤックで聞いた言葉が思い出された。そうか、自分はこういう人と働くことをすごく大事なことだと思っているんだなと思った。人間の体力と時間は有限だし、仕事だけに全てのリソースを割くわけにもいかないのも現実だしそうしたいわけでは全くないんだけど、何かこれはと決めた仕事をやってやるぞと意気込んだ時に、その目標とする達成水準が極めて高い人。また、その達成に向けた動機が、昇進とかボーナスとか怒られたくないとかそういうことではなく、ただそれを成し遂げたいという気持ちによるものである人。全ての仕事に全力である必要はない(長期的に成果を挙げるためにも)のだけど、全力の質が高い人というものに自分は惹かれ、一緒に働くことを幸せに感じるのだなと思った。

 

コンサルタントとしての仕事の中でも何度となく感じていたことではある。プロジェクトテーマが何であっても、プロジェクトが大変であっても、チーム・クライアントといった一緒に働く人に恵まれるとそのプロジェクトはめちゃくちゃに楽しい。今回の一週間の中で、改めて言葉にしてそれを認識できたのは収穫であった。

カヤック訪問の反響

ほぼ余談になるが、トレック後に各企業訪問への感想を問うアンケートを実施したところ、カヤックはとても高い点数ではあったものの、2人ほど、10段階評価で5以下をつけているやつがいた。理由を見ると、「非日本語話者を採用しておらず、トレックとしてはあまり関連性がないから」。これはこちら側の事前の期待値調整にも責任があるとはいえ、おいおいそんなに就活という近視眼的な捉え方に終始してしまっていいんかーいとは思った。君らは将来経営者/経営幹部になりたいからMBAに来ているのではないのか、人事制度のくだりとかが今後何かの役に立つ可能性があるとか思わないのか!

 

なお、その2日後ぐらいにカヤックに「5」をつけたうちの一人から連絡が来た。「いま自分がインターンしている会社で日本でプロモーションするパートナーを探しているからカヤックを紹介して欲しい」。オラ、そういうことだよ。何がどう繋がるかわからないんだから、一個一個の経験を大事にしたほうがいいんじゃねーのか!余談でした。