(Facebookからの転載)
今日は思いつきでツアーに申し込み、滝に行った。石灰岩がどうのこうので青く見えるらしく、とても綺麗だった。滝に打たれる爽快感もハンパなくて、間違いなく来てよかったと思う。
さて、帰りは14:30にバスに集合とのことだったので集まったはいいけれど、ドライバーが全然来ない。15分ぐらいして、他の乗客もざわついてきたところ、他のバスの運転手と思しき青年が僕に話しかけてきた。
運: このバスの運転手の名前はトゥイミアナムだ、きっとあっちの方でビリヤードをやってるかビールを飲んでるから、トゥイミアナーム!って言いながらあそこらへんを歩き回るといい
し: 急いでないからいいよ
運: いいから行って来いよ。名前は覚えたか?トゥイミアナムだ!言ってみな
し: トゥイミアナム
運: ヒャーッ。そうそう、行って来い!
なんで僕が行かなくてはいけないんだろうと思ったけど、他の乗客の顔を見たら、何してんだ早く行って来いよって顔をしている。このように無責任で他責的なスタイルを取る人は、彼ら自身の成長のみならず、ひいては人類社会の成長を実に緩やかなものにしていることに責任の一端を感じて欲しい。そういうわけで、一流のオーナーシップを見せつけてやるべく、行くことにした。駐車場から少し離れた売店が集まっているような場所に着くと、確かにビリヤード台があって10人がかりで囲んでいる。
し: トゥイミアナーム!(運転手の顔は覚えていない)
ビリヤードを囲んでいた集団に、なぜか爆笑が起こる。奥の方でビリヤードをやっていた、トゥイミアナムっぽいやつがキューを握ったまま飛び出てきた。
ト: あと2分、いや5分で行く
し: マジで?急いでよトゥイミアナム
また爆笑が起こる。トゥイミアナムと言うと、爆笑が起こるみたいだ。そんなわけで先に駐車場に戻ると、さっきの運転手が嬉しそうに話しかけてくる。
運: トゥイミアナムはいた?
し: トゥイミアナムいたよ
運: ヒャーッヒャーッ。いい名前だ、ヒャーッ
このあたりから、トゥイミアナムというのは彼の本当の名前じゃないんだろうなと思った。きっと、何かラオス語で卑猥な言葉か何かで、○○野郎とか○○が大好きな野郎とか、そんな意味に違いない。
ようやくトゥイミアナムがバスに戻ってきて、乗客全員乗り込んだ。いざ出発という段になったが、さっきの運転手はまだ僕の席の横の窓を叩きながら、セイ・ヒズ・ネイム・アゲーン!とか言ってやがる。何がアゲーンだ、馬鹿野郎。
バスは走り出したが、何だか怒りがこみ上げてきた。こっちが言葉をわからないのをいいことに、大衆の面前で○○野郎だなんて卑猥な言葉を叫ばせるとは、下劣な行為だ。しかし、僕は自分が世界を股にかけるべき誇り高いジャパニーズサラリーマンであることを思い出し、怒りを鎮めた。なるほど彼がしたことは確かに下劣かもしれないが、言葉のわからない外国人に卑猥な言葉をしゃべらせるのは確かに楽しい。そういうことが良くないことだと気づくためには、高度な国際感覚が必要なのだ。
バスがルアンパバーンの街まで戻った頃、僕は運転手に聞いてみた。
し: トゥイミアナムというのは、あなたの本当の名前じゃないんでしょう?
ト: ・・・違うよ
し: どういう意味なの?
ト: 王様だよ
思ったほど卑猥な言葉ではなかった。いつも自由に行動して乗客を待たせたりするから、そう呼ばれたりしてるのだろうか。しかし、卑猥な言葉でないとすると、先ほど感じた怒りの行き場がなくなったように思えてきて、僕は少し恥じ入った。いやしかし、トゥイミアナムはああ言ったものの、本当はただの王様という意味じゃないのかもしれない。◯◯王とか、◯◯が大好きな王様とか、そういうやつかもしれない。
そう思うとまた怒りがこみ上げてきた。そうだ、こういう怒りを大事に、世界と戦わなくてはいけないのだという気がしてきた。そうして、僕は怒りの火が消えないように気をつけながらホテルに戻り、一心不乱にiPhoneのキーボードを叩いている。