香港MBA留学後記

留学、その後

アジアMBAの旅の終わり(その1)

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既にMBAでの全課程を終え、ボーナスステージ的な北京語言大学での中国語学習も残すところ約半月ほどとなった。一年半の長い旅路を終えようとしている今、自分なりの総括をすると共に、同じようにMBA(特にアジア)の取得を検討している人の役に立つ(かもしれない)話を書き留めておきたいと思う。

 

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MBAには意味があるか

これはよく議論される話であると思う。多くの人が言うのと同様、自分も「人による」と答えるのが最も誠実な回答と思う。現状のキャリア、目指すキャリア、送りたい人生、留学時期にあたる20歳中盤から30歳中盤までに得た肩書きやスキル、資金源の有無等々、様々な組み合わせによって、意味を為すかなさないかは異なる。

 

逆に言えば、MBAによりメリットを得られるパターンもかなり色々あると思っているのだが、網羅的に整理するのは骨が折れるし、僕が学び得なかったことも山ほどあることが間違いないので、いくつか極めて典型的なものを列挙するに留め、自分にとってどうだったかは後編で述べたいと思う。なお、日本人と外国人で諸々の理由により大きく違うので、以下は日本人に限った話。

MBAが有効な典型的パターン

日系大企業からの社費の人

学費に加えて給料も貰えて、社内でも出世コースに乗れるなら(そういう会社は多いだろう)、行かない手はないと思う。日韓以外でこんなに恵まれた社費の人を見ることはなかった。

MNC(多国籍企業)に日本人枠以外で入りたい人

真のMNCではMBAが事実上アプライにおける最低条件(的)になっているところがあると聞く。但しもちろんhiring listに入っている学校に行く必要はある。

職種転換したい人

例えばエンジニア側からマネジメント側に一気に転身したいものの今の職場では可能性が薄いか時間がかかるため転職したいが、ゴリゴリのエンジニアバックグラウンドのためそれが難しい人など。

学部の学歴に迫力がない人

ただし今時学歴は一部のキャリアにおけるhygiene factor以上の意味をなさないと思うので、そういうキャリアを送りたいのに学歴が足りていない人に限る。

等々。但し他にも沢山ある。 

MBAとは「なに」ではないか

自分の経験した範囲が限定的であること、自分自身の学ぶ力に限界があることから、「MBAのメリット」を列挙することは到底できない。但し、世の中にいくらか誤解があると思われるいくつかの「ではない」について書いておきたい。

網羅的で先進的な経営(学)の知識が得られるところ(ではない)

当たり前のことだけど、MBAの授業時間は経営学系の学部で提供される時間よりも圧倒的に短い(授業の予習に圧倒的に長い時間が要求されるのがMBAの特徴だけど、それでも)。しかも一つのテーマを一つのケースでじっくり議論したりするので、(本当の意味で)網羅的に行われるものと期待してはいけない。大学でまともに勉強した人がごく僅かで、かつ経営学の知識が巷に溢れていなかった今のシニア世代の頃はMBA帰りの知識は輝いて見えたこともあったかもしれないが、いま現在においては例えば一橋大学の商学部で4年間「ガチで」勉強した人の方が知識面では間違いなく勝る。海外で一部のテーマに関しては真に先端的な研究内容を紹介されることはあるだろうが、全部が全部ではない。

 

但し、エンジニアやデザイナー等のバックグラウンドの人が一通りの経営テーマに手触り感を持つことはできるだろうし(そしてそれはとても意義があることだし)、基本的に専門学部の基礎的・要素的・学問的な授業とは異なって総合的な観点から実践的に議論されるという点に特徴があるし、多くの日本人にとっては英語でそれをやるというのも大きな意義があるので、授業に意味がないというつもりは全くない。

 

実際、各授業では世界中のビジネススクールが練りに練ったケースが提供されており、如何にこれらと向かい合うかによって、得られるものは段違いに異なるだろう。おそまつながら商学部を卒業し投資銀行・コンサルティングのキャリアを計10年以上経験した自分でも、学びようによって深いものを得られるという実感がある(恥ずかしながら「得た」と断言はできないのだけど・・・)。例えば岩瀬大輔さんのHBS留学記を読めば、如何に深いレベルで彼が学び、考えていたかがわかるが、それは僕は学び得なかったものである。HBSのような真のトップスクールのことを自分が語れるわけでもない。しかし、それは知識的なことではないだろうとは言えると思う。

すごく勉強ができる人がいくところ(ではない)

これは実は他の国の学生と日本人の学生とによって違いがあるのだが、少なくとも日本人の学生にとっては事実と異なると思っている。

 

企業派遣が激減し、取得しても日本国内でのキャリア形成にはあまり役立たない現在、日本人学生でMBA留学を志す人はとても少なく、スコア獲得ということに限って言えばはっきり言って競争は緩い。

 

インド人、中国人がTOEFL・GMATで満点近い戦いを強いられる中(もっとも中国人はチートありという話もあるのだが…)、日本人が仮にTOEFL110点・GMAT720点あったらとりあえずどこのスクールでも出願できるだろう。アジアMBAならTOEFL100・GMAT650もあれば十分。要は殆ど英語の試験であり、例えば東大京大や早慶を卒業しているような人なら、正しい方法で時間をかければ日本人の中での良いスコアというのは取り得ると思う(僕は取っていないのでいまいち説得力に欠けると思うが)。

 

簡単にGMATで700点以上取れるような人はやっぱり頭がいいかもしれないけど、それだけで投資銀行やコンサルティングファームが諸手を上げて欲しがるような「あったまいいー!」ということを即意味することはない(但し、HBSのような学校に行く人はスコアをクリアした上で様々なハードルを超えておられることは理解している)。

 

取得することでどこの職場からも引く手数多になるところ(ではない)

先に述べた「真のMNCでの日本人枠以外での採用」を除き、少なくとも日本に限る限り、いま現在では投資銀行だろうがコンサルティングファームだろうが、既に通常アプライ可能なバックグラウンド的閾値を超えている人にとっての加点にはならないと思う(もちろん、閾値を超えていない人にとってはアプライ可能になるという点でメリットがある)。

 

なお投資銀行やコンサルティングファームの上層部にMBA取得者が多く見えるのは、日系のMBA派遣が盛んだった過去において、「(ノウハウ輸入が特に重要だった当時の業界の要求に応えられる)英語力があり」「(外の世界を知っているので)転職に抵抗感が薄く」「(当時優秀な人が集まっていた日系大企業の社内選考を突破しているので)優秀だというシグナリングがある」人材がこれら業界に流れ込んでいたからであると思っている。よって、MBAを取らないとこれらの会社で出世できないということでは全くないと考えて良いと思う。

 

そうは言ってもコンサルティングなどでは即活きる能力が身につくところ(でもない)

自分はコンサルティング業界のことしかよくわからないのだけど、2010年から外資系戦略コンサルティング業界に携わっている中で沢山の欧米トップスクール出身者を見てきた。ところが、例外なく業務では苦戦し、「MBAで何かを身につけたはずなのに」というギャップと苦しんでいる人も多かったのではないかと思う。なまじっか高めのタイトルで入社することになる点もキツい。人によりMBAで得たものは違うであろうものの、より上位のタイトルについた時には活かせるものがあると信じているが、戦略コンサルティングの現場において知識やハードスキル的な面ですぐに活かせるとは思わない方がよいと思う。投資銀行業界も5年ほどかじったことがあるが、この点IBの方が中堅以下でのハードスキルの重要性が高いのでなおさらそのように思う。

 

自分にとってのMBA

いよいよ自分の話だ。僕はなぜMBAに進むことにしたか。

 

2015年当時、100%自分の責任でプライベートがめちゃくちゃになっており、どこか遠くにいって人生を立て直したいと思っていたのがきっかけであることは否定することができない。いつか留学をしてみたいとずっと思っていたのは確かだが、憔悴しきった土曜日のオフィスで社内留学制度の案内メールを見て、これしかないと深い考えなしにすぐさま応募した。社費といっても日系の厚いサポートとは異なる。何千万円かかってでも、社会的に許容され得る範囲で何度目かのモラトリアムを得なくてはという気持ちになっていた。

 

結局、後付けで美化することは避けられないかもしれない。それでも、この一年半で何が起こったと僕は記憶しているか、整理しておく必要があると思う。

 

(が、長くなったのでその2に続く)